天体観測用PCの消費電力

最近のPCは高い処理能力を持ちながら低消費電力化が進んでおり、私の使用しているPCは天体写真撮影時に5から6ワット程度の消費で収まっています。これぐらいならディープサイクルバッテリーのような大型電源は必要なく内蔵バッテリーでも一晩の駆動は可能ですし、モバイルバッテリーを使うというのも選択肢となります。ここではPCの消費電力について注意するべきポイントを説明します。


天体観測機材の消費電力

以前にも紹介しましたが、私の使っている天体観測機材の消費電力はざっと以下のような感じになっています。

  • ・ EQ6赤道儀: 24W
  • ・ AP赤道儀: 1.5W
  • ・ ヒーター 2本: 計3.5W (撮影用光学系とオートガイダー)
  • ・ カメラ用外部電源: 2W (バルブ撮影中)
  • ・ PC: 6W

高速導入に対応しているEQ6赤道儀の消費が飛びぬけて多く、これを使わない機材構成のときであればモバイルバッテリーにて十分対応可能なレベルに収まっています。しかしながらPCの消費電力は使用しているPCの機種や使い方、ソフトウェア、USBに接続する機器によって大きく変わり、20Wを超える状態になっていることもあります。これほど消費電力が高い状態だとディープサイクルバッテリーを使っていても一晩の観測で不安を感じることが出てくると思います。

PCの消費電力をチェックする

ここ2、3年以内に発売となったPCであればUSB C PDに対応しているものが多く、CPUや液晶なども低消費電力化が進んでいるので安心です。それに加えてストレージをHDDではなくSSDを選ぶ、液晶はあまり高解像度でないものを(横1920ピクセル程度)選び、かつ最低輝度で使用するといったことでベースとなる電力を抑えることができます。PCの低価格化も進んでいるのでこういった構成でも新品で7 - 8万円、機種によっては5万円ぐらいで入手可能だと思います。

PC USB C PD 給電

しかしいくらベースとして抑えた構成になっていてもCPUへの負荷が高い状態になると一気に消費電力が上昇します。高性能化が進んだCPUにとっては天体観測で使用されるオートガイド、星図ソフトなどは本来は軽い負荷ですむ処理なのですが、アプリや機器のドライバソフトが適切に実装されていないとCPUに無駄な負荷となり電力の無駄遣いとなってしまいます。

それを比較的簡単にチェックできるツールがタスク マネージャーです。タスク マネージャーを立ち上げるには、通常ではWindows 10のデスクトップ画面左下に検索ツールが配置されているので、そこで"タスクマネージャー"とタイプするのが簡単です。

Win10 タスクマネージャー


PHD2でのCPU負荷

ここでは室内においてPHD2でガイドカメラを接続し画面キャプチャを流している状態でタスク マネージャーでCPU負荷を確認しました。本来はオートガイドしながらの確認の方が良いのですが、おおよその傾向は把握できると思います。

オートガイド PHD2 CPU使用率

"プロセス"タブで見てみるとPHD2によってCPUが35%もの使用率となっているのがわかります。そのまま"パフォーマンス"タブに切り替えるとそのときのCPUの状態が確認できます。

オートガイド PHD2 CPU周波数

CPUの基本周波数が2.71GHzのところ、それをオーバーする3.1GHzに貼り付いた状態となってしまっていす。本来CPU周波数は可変で負荷が低い状態では1GHzぐらいまで下がり、負荷に応じてそれが2GHz, 3GHzといったところにジャンプアップします。この状態でUSB Cポートのところで実際の消費電力を測定しました。20V x 0.63A = 12.6W となり期待する5W程度より、かなり高い状態となってしまっています。(電力測定は内蔵バッテリーへの充電がされていないときに行わないと何の電力を測っているのかわからなくなるので、内蔵バッテリー状態の確認が必要です。)

オートガイド PHD2 消費電力


ガイドカメラを変えてみる

ここでガイドカメラをオフアキ撮影の時に使用するLodestar X2に交換して同様にチェックしてみます。まずはCPU使用率です。

PHD2 Lodestar CPU使用率

LodestarではCPU使用率はわずか1%で全く異なりますね。CPU周波数はどうでしょうか。

PHD2 Lodestar CPU周波数

CPU周波数は変動はありますが1GHz - 2GHzの間にとどまっています。PHD2によるCPU使用率が圧倒的に低くなったのでCPUも処理能力の一部を割くだけで動作出来ているのがわかります。今度はもう一つ別のガイドカメラ ZWO ASI120MM Miniにしてみます。こちらもCPU使用率、CPU周波数は十分に低い数値です。

PHD2 ASI120Mini CPU使用率 PHD2 ASI120Mini CPU周波数

どうやら最初に示したガイドカメラに問題ありということのようです。(ドライバソフトウェアが)適切につくられたガイドカメラならPHD2はPCにとって大した負荷とならないことがわかります。PHD2のCPU使用率が低いときのPCの消費電力を見てみると 20V x 0.14A = 2.8W ですから 10WもPCの消費電力が低くなっていることになります。

202003_pc_power_3w.jpg

この10Wの差はガイドカメラそのものの消費電力の差ではなく、動作時にCPUをどのように活用するかというソフトウェア設計の差です。最初に用いたガイドカメラはソフトウェア設計が適切でなくCPUパワーを無駄に消費していると言えます。もっともガイドカメラの場合ドライバソフトはPHD2ネイティブ対応のものとASCOM経由のものと選べることが多いので、それによっても振る舞いは違うかもしれません。

高めのCPU使用率は問題

天体撮影時に最も忙しく稼働していそうなオートガイドソフトウェア PHD2ですら、数%以下のCPU使用率で抑えられることがわかりました。(ただし古いPCだとCPU処理能力が低いため、PHD2のCPU使用率は高くなる、その結果消費電力が高くなると思います。) PHD2以外のアプリ、例えば星図ソフト、カメラコントロールなどは同等以下のCPU使用率となるのが期待値です。残念ながら少し調べた範囲でも無駄にCPU使用率が高い星図ソフト、カメラコントロールアプリは存在しています。私がニコンカメラの制御に digiCamControlを使っている理由の一つが、ニコン純正のCamera Control Pro 2のCPU使用率が高かったことでした。ニコンではカメラに付属せず別途購入する必要があるのですが、それにも関わらずそのような品質だったのでがっかりでした。

CPU使用率の高いアプリを使用していてもPCの消費電力を多少改善できる可能性はあります。Windows10デスクトップの右下に表示される電源アイコンをクリックすると電源メーターが出てきます。もしそのメーターが右端にセットされているのであれば、真ん中もしくは一番左のポジションに変えれば消費電力は下がるかもしれません。ただしこの効果はPC、アプリなど状況によって異なってくるのであまり期待はしない方がいいと思います。

202003_pc_power_meter.png

強制的にCPU周波数の上限を抑える手立てもあるのですが、そうすると消費電力改善の割合があまり大きくないにもかかわらずPCの反応が遅くなったりするのであまりお薦めではないのでここでは説明しません。それよりも適切なアプリ、機器を使った方がずっと良い結果が得られます。

まとめ

ディープサイクルバッテリーは重く取り扱いも大変だからその使用をやめたい、それにはPCを使うのをやめなければという声もよく聞きますが、そもそも高速駆動の自動導入赤道儀を使用するのであればPCを使わなくても電源はそれほど楽にならないです。一方でPCの電力消費も大きく改善できる可能性があります。まずはタスクマネージャーで使用状態をチェックしてみるのが良いのではないでしょうか。

海外遠征においてもオートガイドおよび電源をどうするかというのがポイントになりますが、うまく運用すればいつも通りのPC+PHD2、そしてモバイルバッテリーで対応できます。

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